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  • 犬の涙やけの原因は?海外の獣医学的な根拠と受診の目安を解説

    涙やけのケアをしている白い犬
    この記事について

    現時点では個人的に感じた感想や意見はまだ記載しておりません!

    海外の獣医学的に涙やけをどう捉えるのかをまとめて参照した内容となります!

    これはこういうのはあった。これはどうだろう?という僕の経験則の部分はまた随時更新いたします!

    こんな人にオススメな内容
    • 目の下の変色の原因を正しく知りたい
    • フードを変えるべきか迷っている
    • 病院に行く目安を知りたい
    • 涙やけと似た病気を見分けたい
    1. 涙やけとは何ですか?
    2. 毛が赤茶色になるしくみ
    3. 犬の涙やけの原因は何ですか?
    4. 「涙点閉鎖」はよくある原因ではありません
    5. ドッグフードを変えれば涙やけは治りますか?
    6. エビデンスを確認できなかった説
    7. 涙やけになりやすい犬種は?
    8. 動物病院に行くべきサインは?
    9. 受診の目安チェックリスト
    10. 動物病院ではどんな検査をしますか?
    11. 海外の研究では何が分かっているのか
    12. 涙は「足りない」のではなく「多い」。ただし質が悪い
    13. シーズーの目で起きていること──2本の研究が示した数字
    14. 鼻涙管は「潰れている」が「詰まってはいない」
    15. 構造を直すと涙は止まる──手術のデータが示すこと
    16. 涙やけそのものを狙った試験は、現時点で1本だけ
    17. 文献で見つけられなかったこと
    18. 自宅でできるケアは?
    19. 予防はどこまでできますか?
    20. やってはいけないこと
    21. 「白くなるサプリ」は安全ですか?
    22. よくある質問
    23. まとめ
    24. 参考文献
    25. 獣医療機関・専門誌の解説
    26. 原著論文(本文の数値は各論文の記載を直接確認)
    27. 規制当局・業界紙
    28. 二次引用(Today’s Veterinary Practice 経由。一次論文の本文は未確認)
    29. 免責事項

    犬の涙やけは、目の下の毛が赤茶色に変色した状態を指す言葉です。フードやサプリで解決しようとする情報が多く出回っていますが、海外の獣医療機関の情報では、涙やけの犬の多くは涙の量も目の状態も正常で、主な要因はまぶたの構造にあるとされています。

    一方で、見た目が涙やけとよく似ていながら、放置すると視力を失う病気もあります。この記事では、確認できた獣医学的な情報にもとづいて、原因・受診の目安・自宅でできることを整理します。本文で触れている解説や研究の出典は、すべて記事末尾の参考文献に挙げています。

    先に結論だけお伝えします。

    • 涙やけは病名ではなく、涙があふれる「流涙症(epiphora)」という症状のあらわれ方のひとつです
    • 多くのケースで、原因は涙の質や食事ではなく、まぶたや涙の通り道の構造にあります
    • 目を細める・白目が充血する・角膜が白っぽく濁るが涙と同時に出ているときは、緑内障の初期症状と重なります。様子見をせず受診してください
    • 自宅でできるのは「拭く・乾かす・毛を短くする」の3つです。これは色を消すためではなく、皮膚トラブルを防ぐためのケアです

    涙やけとは何ですか?

    目の下に赤茶色の涙やけの筋が出ている白い犬

    涙やけは病名ではありません。 動物病院で使われる「流涙症(epiphora)」は、涙が目からあふれ出ている状態を指す症状名で、その背景にはさまざまな原因があります。日本語の「涙やけ」は、そのうち被毛が着色した見た目を指す俗称です。

    毛が赤茶色になるしくみ

    着色に関わっているとされるのがポルフィリンという物質です。アメリカの動物病院グループが公開している解説では、ポルフィリンは鉄を含む分子で、鉄が分解される過程でつくられ、涙のほか尿・唾液・消化管の内容物からも排出されるとされています。

    ここから分かることが2つあります。ひとつは、着色は毛色を問わず起きるということ。白い毛の犬が「なりやすい」のではなく、単に目立ちやすいだけです。もうひとつは、涙やけは目だけの現象ではなく、体の中の鉄の代謝と関係しうるということです。

    なお日本のウェブ記事では「ポルフィリンが日光や空気で酸化して赤茶色になる」という説明が広く見られますが、この説明を裏づける記述は、今回参照した獣医学的な情報源では確認できませんでした。同様に、着色の原因を特定の酵母や細菌に求める説明も、確認できていません。

    ただし、涙で濡れた状態が続くこと自体は問題です。米国の獣医向け専門誌は、流涙が「目の下の湿性皮膚炎」につながりうると記載しています。自宅ケアが意味を持つのは、この二次的なトラブルを防ぐ点にあります。

    犬の涙やけの原因は何ですか?

    もっとも押さえておきたいのは、涙やけの犬の多くは涙も目も正常だという点です。 先ほどのアメリカの動物病院グループの解説は「この状態の犬のほとんどは涙が正常で、目の基礎疾患もない。主な原因は通常、まぶたの解剖学的構造に関係しており、それによって涙が涙管から流れずに顔にこぼれる」と述べています。

    原因は大きく2つに分けられます。

    涙が多くつくられる(産生過剰)涙がうまく流れない(排出障害)
    何が起きているか刺激や炎症で涙の量が増える涙の通り道がふさがっている・そもそも開いていない
    主な要因結膜炎、アレルギー、目のけが、まつげの異常(睫毛乱生)、角膜潰瘍、眼瞼内反・外反、緑内障鼻涙管の閉塞(炎症性のデブリ・異物・腫瘤)、被毛による閉塞、涙点が生まれつき開いていない(涙点閉鎖)
    見分け方目の充血・痛がるそぶりを伴いやすい涙は多いが目そのものは落ち着いて見えることがある
    確認の方法眼科的な検査が必要フルオレセイン染色や鼻涙管の洗浄で分かる

    出典:北米の動物病院グループの解説、獣医師向けの標準的な手引き(詳細は末尾の参考文献)

    季節で変わる涙——春の花粉・黄砂・換毛、夏の湿気・エアコン・紫外線・水遊び、秋の花粉・ダニ・換毛・草の種、冬の乾いた空気と暖房——は、季節ごとに別の記事にまとめています。

    あわせて読みたい 春の涙やけ|スギ・ヒノキ花粉、黄砂、換毛、新生活——2〜5月に涙が増える4つの候補と、確かめる順番 → あわせて読みたい 夏の涙やけ|エアコンの風、紫外線、湿気とダニ、水遊び——6〜8月に涙と皮膚が荒れる4つの候補と、確かめる順番 → あわせて読みたい 秋の涙やけ|換毛・秋の花粉・ダニのフンと死骸——9〜11月に涙が増える3つの候補と、確かめる順番 → あわせて読みたい 冬の涙やけ|暖房の乾いた風・残るダニ・寒い外気——12〜2月に「目やにが粘る」なら涙が減った側を疑ってください →

    なお、短頭種(マズルが短い犬種)については注意が必要です。造影CTで涙の排出路を三次元計測した研究では、短頭種の鼻涙管は正常な犬より41〜57%短く、逆U字に強く屈曲していました。しかし鼻涙管の途中には、犬にもともとある「副開口部」という別の出口があり、短頭種の54%ではそこが造影剤の唯一の排出経路になっていました。構造は極端に歪んでいるが、詰まってはいないというのが著者らの結論です(Sahr らの研究、2021年)。短頭種の流涙で先に疑うべきは、出口の詰まりではなく、涙点をふさぐ目頭側のまぶたの巻き込みと、涙の膜の不安定さです。詳しくは後述します。

    「涙点閉鎖」はよくある原因ではありません

    生まれつき涙点(涙の出口)が開いていないケースはありますが、獣医師向けの標準的な手引きの専門家向け版は、これを 「若い犬において頻度の低い原因」 と明記しています。ネット上では主要な原因のように書かれることがありますが、実際にはそれほど多くありません。

    一方で注意したいのが涙嚢炎です。同じ手引きは、鼻涙管の閉塞によって涙嚢に炎症が起きると、流涙に加えて「治療に反応しない結膜炎」を伴うと記載しています。目薬を続けても結膜炎が治らない場合は、涙の通り道の問題を疑う手がかりになります。

    ドッグフードを変えれば涙やけは治りますか?

    「フードが涙やけの原因である」という主張を支持する獣医学的なエビデンスは、今回の調査では確認できませんでした。 期待を持たせる情報が多い領域なので、確認できたことだけを正確に書きます。

    1. 主要な獣医学的情報源は、主因を構造に求めています。 前述のとおりアメリカの動物病院グループの解説は、涙やけの犬の多くは涙も目も正常で、まぶたの構造が主因だとしています。食事を主な原因とはしていません。

    2. 「原因」と「軽減」は別の話です。 同じ解説には「食事は涙やけの管理において重要な役割を果たす」という記述もありますが、これは managing(管理・軽減)についての文であり、causing(原因である)とは書かれていません。また、この記述に臨床研究の引用は付いていません。日本のウェブ記事では、この2つがしばしば混同されています。

    3. 見つかった対照試験は「サプリの効果」を見たものです。 犬40頭(プードルとビション)を対象に、生薬エキスを与えて涙やけスコアの変化を調べた研究が2026年に報告されています(2026年に報告された研究)。3種のエキスで涙やけスコアと着色範囲が有意に低下し、血清鉄やポルフィリン代謝に関わる指標も変動しました。

    ただしこれは、特定の成分を足したら涙やけが減ったという研究であって、通常のフードが涙やけを起こすことを示した研究ではありません。 頭数が40頭、犬種は2種のみ、追試もまだない単一の研究です。「フードが原因」の根拠として引用するのは誤りです。この試験の中身は、後半の「海外の研究では何が分かっているのか」で詳しく取り上げます。

    エビデンスを確認できなかった説

    以下は日本のウェブ記事で頻繁に見かけますが、今回参照した獣医学的な情報源では裏づけを確認できませんでした(科学的に否定された、という意味ではありません)。

    • 硬水・ミネラルウォーターが涙やけの原因になる
    • 涙のpHが酸性/アルカリ性に傾くと着色する
    • 穀物(グレイン)や添加物・保存料が原因である
    • グレインフリーのフードに替えると涙やけが解消する

    フードの見直し自体は、アレルギーが疑われる場合など意味を持つことがあります。ただしそれは獣医師が原因を絞り込んだうえでの選択肢であって、最初に試すべきことではありません。

    涙やけになりやすい犬種は?

    両目の下が赤茶色に変色した白い長毛の犬

    顔の構造と、目の周りの毛の量が関係します。 アメリカの動物病院グループの解説はマルチーズ、シーズー、プードル、コッカー・スパニエルを挙げ、その理由を「顔の構造と目の周りの被毛」としています。毛の色は理由に挙げられていません。

    とくに影響が大きいのが短頭種(マズルが短い犬種)です。フロリダ大学獣医学部の Caryn E. Plummer 教授(米国獣医眼科専門医)による解説と、その引用元の原著論文からは、次の点が挙げられます。

    内眼角眼瞼内反:下まぶたの目頭側が内側に巻き込み、涙の出口である涙点をふさいでしまう。これが流涙の直接的なしくみとして、いちばん分かりやすい説明だと思います。シーズー50頭を調べた研究では、涙丘から生えた毛が眼球に当たる状態と、下まぶた内側の眼瞼内反が 調べた全頭 に見つかっています(Sebbag らの研究)。ただし50頭ぶんの結果である点は、後述します。

    まばたきが閉じきらない(兎眼):同じ研究で 82%の眼 に認められました(閉じ残り5〜35%・平均15%という内訳は、米国の獣医向け専門誌が同研究から引用した値です)。別のチームがシーズー28頭を調べた研究では、1分あたりのまばたきのうち完全に閉じるものは中央値2.5回で、閉じきらないまばたきが15.0回を占めました(Vitor らの研究、2024年)。

    涙の膜が壊れやすい:健康なフレンチ・ブルドッグ50頭と短頭種でない犬30頭を比較した研究では、涙の膜がもつ時間は7.39秒 対 14.74秒と約半分でした。一方でシルマー涙液試験の値は短頭種のほうが 高く(19.05 対 16.88 mm/分)、目にたまる涙の量は約2倍(0.64 対 0.31 mm)でした(Spornberger らの研究、2025年)。

    鼻のシワ:シワのある犬は、ない犬に比べて角膜潰瘍のリスクが約5倍(米国の獣医向け専門誌が Packer らの研究、2015年から引用)。

    該当しやすい犬種として、フレンチ・ブルドッグ、パグ、シーズー、イングリッシュ・ブルドッグ、ペキニーズが挙げられています。

    フレンチブルドッグでは、涙の量はむしろ多いのに、涙の膜が半分の時間で崩れて目が乾く、という研究があります。「多い」と「乾く」が同時に起きる仕組みは、こちらに書いています。

    あわせて読みたい フレンチブルドッグの涙やけ|涙が多いのに、目は乾いています →

    同じ短頭種のボストンテリアでは、犬種別の手引きにチェリーアイ、5〜9歳から角膜が曇る角膜ジストロフィー、涙点の閉鎖が載っています。白い口まわりの跡は、涙とよだれが重なって見えていることがあります。

    あわせて読みたい ボストンテリアの涙やけ|白い口まわりの跡と、5〜9歳から曇る角膜 →

    ブルドッグ(イングリッシュ・ブルドッグ)は、英国の一次診療の記録でチェリーアイが他の犬の26.79倍、ドライアイが12.24倍、まぶたの巻き込みが11.61倍、皮膚のシワの皮膚炎が38.12倍でした。涙やけの手前に目の病気そのものが並ぶ犬種です。

    あわせて読みたい ブルドッグの涙やけと目の病気|チェリーアイ27倍・ドライアイ12倍、英国の記録が示すこと →

    パグは、角膜に傷ができる確率が雑種犬の19.05倍と、調べられた犬種の中で最も高い犬種です。英国のパグ210頭を調べた研究では、91.9%の角膜に色素沈着がありました。涙やけより先に、黒目の色を見てください。

    あわせて読みたい パグの涙やけ|涙の跡より先に、角膜の色を見てください →

    なお、マルチーズやトイプードル、ポメラニアンは短頭種ではありません。毛と目頭のまわりが中心になるため、対処の方向が変わります。実際のお手入れ例もあわせてご覧ください。

    あわせて読みたい マルチーズの涙やけが改善するまでのお手入れ実例 →

    マルチーズについては、目頭側の下まぶたの巻き込み、涙の出口の形成不全、5〜7歳からのドライアイといった、犬種別の手引きに載っている構造を別の記事にまとめています。

    あわせて読みたい マルチーズの涙やけ|白い毛で目立つ理由と、目頭のまぶたが巻き込む理由 →

    ポメラニアンの場合は、まつ毛やまぶた、涙の出口といった、その子に固有の異常が挙げられています。片目だけ濃いといった左右差があるときは、とくに手がかりになります。

    あわせて読みたい ポメラニアンの涙やけ|片目だけなら原因が違います →

    片目だけの涙やけは、犬種を問わず、目そのもの・涙の通り道・歯・鼻の4か所を順に確かめます。左右差から原因を絞る方法は、別の記事にまとめています。

    あわせて読みたい 片目だけの涙やけ|左右差が教えてくれる、目・涙の通り道・歯・鼻の4つの原因 →

    トイプードルは、涙が「増える」原因(まつ毛の異常)と「出ていけない」原因(涙の出口の閉鎖)の両方が、遺伝性として犬種別の手引きに載っている犬種です。

    あわせて読みたい トイプードルの涙やけ|涙が多いのか、出口が閉じているのか →

    チワワは、犬種のなかで顔つきが割れています。アップルヘッド寄りなら目が前に出ている短頭種に近い構造、ディアヘッド寄りならまぶたや毛の話が中心になり、見るところが変わります。

    あわせて読みたい チワワの涙やけ|アップルヘッドとディアヘッドで見るところが変わります →

    ミニチュアシュナウザーは、涙やけの好発犬種としては挙げられていません。それでも涙やけがあるなら、ドライアイ・アレルギー・眉毛の3つを疑う理由があります。ヒゲの赤茶色は、涙やけとは別の話です。

    あわせて読みたい ミニチュアシュナウザーの涙やけ|ドライアイとヒゲの変色を分けて考える →

    ダックスフンドは、犬種の形では涙やけを説明できない犬種です。獣医眼科の手引きは毛質と体格で分けていて、まぶたの内反は「外側」、そして治らない角膜の病気(パンヌス)が載っています。

    あわせて読みたい ダックスフンドの涙やけ|まぶたより先に角膜を疑う犬種です →

    ヨークシャーテリアは、伸び続ける毛と乾きやすい目の2つが重なる犬種です。英国のヨーキー2万8,032頭の記録では歯周病が21.10%で最多で、目の下が腫れたときは歯も疑う必要があります。

    あわせて読みたい ヨークシャーテリアの涙やけ|長い毛と乾きやすい目、2つの理由 →

    キャバリアは、涙が多いのではなく「足りなくなる」犬種です。英国の36万頭の記録ではドライアイになる確率が雑種犬の19.79倍で、粘り気のある目やにが涙やけと紛らわしくなります。

    あわせて読みたい キャバリアの涙やけ|涙が多いのではなく、足りなくなる犬種です →

    ドライアイになる確率がいちばん高い犬種は、アメリカンコッカースパニエルです。同じ記録で17頭に1頭、雑種犬の52.33倍。粘る目やにを「涙やけ」として拭き続けやすい犬種です。

    あわせて読みたい アメリカンコッカースパニエルの涙やけ|ドライアイ52倍・チェリーアイ12倍、手引きに15の目の病気が載る犬種 →

    ドライアイの有病率で2番目に高いのは、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア(ウエスティ)です。同じ記録で2.21%(およそ45頭に1頭)。白い毛で目立つうえに、皮膚のかゆみで涙が増える犬種でもあります。

    あわせて読みたい ウエスティの涙やけ|白い毛にかゆみとドライアイが重なる犬種です →

    逆に、手引きに涙の病気がほとんど載っていない犬種もあります。コーギーは、目の構造で涙やけを説明できない犬種です。出ているなら、犬種ではなく、その子の目に理由があります。

    あわせて読みたい コーギーの涙やけ|手引きに「涙の病気」がほとんど載っていない犬種で、出ているなら理由があります →

    パピヨンは、手引きに下まぶたの巻き込み・涙点の閉鎖・睫毛重生が「知られている」病気として載っている犬種です。標準が望ましいとする白いブレーズは、涙が流れる場所そのものです。

    あわせて読みたい パピヨンの涙やけ|白いブレーズに跡が残る理由と、手引きに載る3つの目の構造 →

    ビーグルは、手引きに睫毛重生とチェリーアイが載っていて、さらに「1歳までに眼圧が上がる」原発性開放隅角緑内障(遺伝子検査あり)が載っている犬種です。涙やけを拭くたびに、目の中も見てほしい犬種です。

    あわせて読みたい ビーグルの涙やけ|大きく優しい目と、1歳で静かに始まる緑内障 →

    ここまでの犬種別の記事を、涙やけの起きる理由(目立つ・ためられない・増える・出ていけない・減る)の5つに分けた索引も用意しています。自分の犬種がどの型かを先に知りたい方は、こちらから。

    あわせて読みたい 犬種・猫種別の涙やけ一覧|「目立つ」「ためられない」「増える」「出ていけない」「減る」の5つで分けた索引 →

    なお、ここまではすべて犬の話です。猫の涙やけは背景が違い、感染症が関わっていることが少なくありません。 猫についてはこちらにまとめています。

    あわせて読みたい 猫の涙やけの原因|感染症のサインと受診の目安を解説 →

    動物病院に行くべきサインは?

    涙やけと見た目が似ていて、放置すると視力を失う病気があります。 ここだけは必ず読んでください。

    米国コーネル大学獣医学部の犬の健康センターは、緑内障の徴候として「目を細める、角膜浮腫(白いもや)、涙、視力の喪失、赤く突出した眼、瞳孔散大、元気消失、食欲不振、痛み」を挙げています。そして重要なのは、「緑内障はわずかな徴候から始まる。少し赤い目と、目を細める程度かもしれない」 という記述です(米国コーネル大学の獣医学部)。

    つまり、初期の緑内障は「ちょっと涙が多くて、少し目を細めている」という涙やけと区別がつきにくいのです。同センターは、確認されれば視力を守るために直ちに治療が必要であり、眼圧が40〜50mmHgを超える場合は緊急の治療を要するとしています(正常値の上限は20〜28mmHg)。

    日本では、緑内障の症例で柴犬が第1位(全犬種の約3分の1)とされています。柴犬の飼い主さんは、かゆみと緑内障を先に確かめる話をまとめた記事もあわせてご覧ください。

    あわせて読みたい 柴犬の涙やけ|かゆみと緑内障、柴犬で先に確かめたい2つのこと →

    受診の目安チェックリスト

    ひとつでも当てはまれば、動物病院にご相談ください。

    • 目を細めている・開けにくそうにしている
    • 白目が充血している
    • 角膜が白っぽく濁っている、もやがかかって見える
    • 前足で目をこする、触られるのを嫌がる、元気や食欲がない
    • 片目だけに症状が出ている
    • 急に涙の量が増えた
    • 物にぶつかる、段差を怖がるなど見えにくそうな様子がある
    • 黄色〜緑色の膿のような目やにが出る
    • 眼球が飛び出して見える、腫れて見える
    • 目薬を使っても結膜炎が治らない

    眼球が飛び出している場合(眼球脱出)は、米国の獣医向け専門誌が「眼球を失いかねない緊急事態」としています。夜間救急も含めてすぐに受診してください。

    動物病院ではどんな検査をしますか?

    「涙が多い」という同じ見た目から、原因を切り分けるための検査があります。 主なものは次のとおりです。

    検査何を調べるか
    シルマー涙液試験涙がどれだけ作られているか。涙やけがあっても涙の量が少ないケース(ドライアイ)を見つける
    フルオレセイン染色① 角膜に傷や潰瘍がないか ② 色素が鼻から出てくるかを見て、涙の通り道が通じているかを確認する
    眼圧測定緑内障かどうか。正常値の上限は20〜28mmHg
    鼻涙管洗浄閉塞の有無を調べると同時に、詰まりを洗い流す処置も兼ねる。麻酔下で行われることがある

    出典:獣医師向けの標準的な手引き、北米の動物病院グループの解説、米国コーネル大学(詳細は末尾の参考文献)

    ひとつ補足があります。色素が鼻から出てこないことは、目が正常な犬でも起こります。 眼科的に正常な犬73頭を調べた研究では、30分以内に鼻孔に色素が現れなかった犬が16%おり、短頭種に限れば12頭中9頭が陰性でした(Binder らの研究、2010年)。陰性は「閉塞の確定」ではなく、次の検査に進むための手がかりです。

    短頭種で構造そのものが原因になっている場合は、内眼角形成術や鼻のヒダの切除といった外科的な選択肢が検討されることもあります。

    費用は検査の範囲や地域、麻酔の要否によって大きく変わります。事前に見積もりを確認しておくと安心です。

    海外の研究では何が分かっているのか

    涙やけを直接調べた研究はごくわずかです。しかし、その手前にある「なぜ涙があふれるのか」については、ここ数年で計測データが揃ってきました。ここでは海外の査読付き論文の内容を、確認できた数値のまま紹介します。専門的な内容を含みますので、各項目の太字の結論だけ拾って読んでいただいても構いません。

    涙は「足りない」のではなく「多い」。ただし質が悪い

    まず、直感に反する結果から。

    2025年に発表された研究は、健康なフレンチ・ブルドッグ50頭(90眼)と、短頭種でない犬30頭(58眼) の涙液を比較しました。結果は次のとおりです。

    測定項目フレンチ・ブルドッグ短頭種でない犬有意差
    シルマー涙液試験I(分泌量)19.05 ± 4.00 mm/分16.88 ± 3.54 mm/分あり(p=0.017)
    涙液メニスカス高(目にたまる涙の量)0.64 ± 0.20 mm0.31 ± 0.22 mmあり(p<0.001)
    非侵襲的涙液層破壊時間(涙の膜がもつ時間)7.39 ± 3.32 秒14.74 ± 5.92 秒あり(p<0.001)
    マイボーム腺の欠損率(油を出す腺の減り方)25.32 ± 19.11 %14.56 ± 9.32 %あり(p=0.027)
    涙液浸透圧296.6 ± 13.6 mOsm/L299.8 ± 16.1 mOsm/Lなし(p=0.40)

    出典:Spornberger らの研究(2025年)

    フレンチ・ブルドッグのほうが涙は多く、目にたまっている涙の量は約2倍でした。 それでいて、涙の膜がもつ時間は約半分。油を出すマイボーム腺は失われている割合が高い。著者らは、臨床的には健康とされたフレンチ・ブルドッグの全頭に「蒸発亢進型ドライアイ」の所見があったとし、この犬種では個体の問題ではなく犬種全体の傾向だと結論づけています。

    同じ傾向は、別の研究チームが別の機器で測っても再現されています。犬68頭(130眼)を頭蓋の形で3群に分けた研究では、次の結果でした。

    測定項目短頭種中頭種長頭種
    非侵襲的涙液層破壊時間8.7 ± 5.4 秒16.9 ± 6.0 秒15.6 ± 6.7 秒
    涙液メニスカス高0.40 ± 0.23 mm0.27 ± 0.12 mm0.26 ± 0.09 mm
    マイボーム腺の欠損率19.3 ± 12.6 %15.2 ± 8.9 %13.6 ± 5.9 %
    シルマー涙液試験I(分泌量)18.2 ± 3.9 mm/分18.3 ± 3.1 mm/分16.8 ± 3.4 mm/分

    出典:Li らの研究

    注目していただきたいのは最下段です。涙の「量」には3群で有意差がありませんでした(p=0.075)。 差がついたのは、膜のもち・たまり方・油の腺のほうです。著者らは、短頭種の油層が薄くなる背景として、まばたきの回数の少なさ、眼周囲の筋肉が相対的に小さいこと、眼瞼裂(まぶたの開き)が相対的に大きいことを挙げています。

    さらに2026年の研究では、シルマー涙液試験が正常範囲(中央値20 mm/分)の短頭種40頭(66眼)でも、非侵襲的涙液層破壊時間の中央値は 1.25秒 にとどまりました。著者らは「涙の分泌量が保たれている犬でも、涙液層破壊時間は低く、ばらつきが大きい」と述べています。

    ここから見えてくる図式は、蛇口ではなく受け皿の問題です。 涙をつくる能力が落ちているのではなく、つくった涙が留まれない。留まれないから表面が乾いて刺激され、刺激されるから反射的にまた涙が出る。出た涙は、たまりきれずにあふれる。「涙が多いのに乾いている」という一見矛盾した状態が、短頭種では珍しくないようです。

    シーズーの目で起きていること──2本の研究が示した数字

    短頭種のなかでも、シーズーは複数のチームが繰り返し調べています。数字が具体的なので紹介します。ただし、いずれも数十頭規模の研究です。読むときの重みは、あとでまとめて書きます。

    シーズー50頭を調べた研究 では、次の所見が報告されています。

    • 涙丘睫毛(目頭の膨らみから生えた毛が眼球に当たる状態)と、下まぶた内側の眼瞼内反:調べた全頭に確認
    • 兎眼(まばたきが閉じきらない):82%
    • 涙液層破壊時間:5.3 ± 2.4秒(短い)
    • シルマー涙液試験(無麻酔):22.0 ± 5.5 mm/分(多い)
    • 角膜色素沈着:27%/角膜の線維化:20%

    出典:Sebbag らの研究

    別のチームがシーズー28頭(56眼)を調べた研究 では、対象を「涙の分泌量が正常な犬」(シルマー15 mm/分超)に絞ってもなお、同じ構図が出ました。

    • シルマー涙液試験:中央値25.0 mm/分(正常より多いくらい)
    • 涙液層破壊時間:中央値4.0秒
    • 涙丘睫毛と下まぶた内側の眼瞼内反:調べた全頭に確認
    • 兎眼:71.4%
    • フルオレセイン染色:全頭陰性(角膜に傷なし)
    • 涙液フェーニングテスト(涙を乾かしたときの結晶パターン)異常:51.8%

    出典:Vitor らの研究(2024年)

    ここで数字の重みについて。 2本を合わせても、シーズーは78頭です。多い数ではありませんし、追試が積み重なっているわけでもありません。「すべてのシーズーがそうだ」と言える数字ではないことは、先に書いておきます。

    それでも、別々のチームが、別々の集団で、同じ所見を全頭に見つけた という点は軽くありません。少なくとも「この犬種では起こりやすいのだろう」と考える材料にはなります。以下の数字は、その程度の重みとして読んでください。

    この研究がとくに興味深いのは、まばたきの中身まで記録している 点です。1分あたりの回数は、閉じきらないまばたきが中央値15.0回に対し、完全に閉じるまばたきは2.5回。まばたきの大半が、目を最後まで閉じていません。

    まばたきは、涙を目の表面に塗り広げると同時に、涙を目頭側の排出口へ押し送るポンプでもあります。それが6回に5回は不完全なら、涙は広がりきらず、押し送られもしない。加えて、目頭には毛が当たり、下まぶたの内側は巻き込んでいる。この犬種で涙が顔にこぼれることは、例外というより、顔のつくりから来る帰結に近いのだろうと考えられます。

    鼻涙管は「潰れている」が「詰まってはいない」

    日本語のウェブ記事では「短頭種は鼻涙管が曲がっていて詰まりやすい」という説明をよく見かけます。CTで実際に測った研究があります。この結果は、通説を半分だけ支持し、半分は否定します。

    ドイツのチームが、短頭種51頭(パグ23頭、フレンチ・ブルドッグ18頭、イングリッシュ・ブルドッグ10頭)と正常な頭の形の犬6頭 について、造影CTで涙の排出路を三次元的に再構成しました。

    項目短頭種正常頭型
    鼻涙管の長さ40.1〜55.2 mm(41〜57%短い)94.0 mm
    涙小管の長さ11〜22.7 mm(2〜3倍長い)5.6〜7.3 mm
    屈曲の角度パグ 59.7°/フレンチ・ブルドッグ 80.4°/イングリッシュ・ブルドッグ 84.3°112.0°
    上り勾配32.5〜52.0%(3〜5倍の急勾配)10%
    全体の形逆U字またはV字L字

    出典:Sahr らの研究(2021年)

    管は短く押しつぶされ、涙小管は引き伸ばされ、通り道は逆U字に曲がって、涙は坂を上らされている。ここまでは通説どおりです。上顎の犬歯の根の下を横切る個体も、パグで31.8%、フレンチ・ブルドッグで61.1%ありました。涙嚢も、正常な犬で見られる滴のような形をとらず、未発達で輪郭が不明瞭でした。

    ところが、詰まってはいませんでした。

    鍵になったのは「副開口部」です。鼻涙管の途中、上顎犬歯の根のあたりに開いた別の出口で、短頭種51頭のうち 50頭(98%) に確認されました。ここで大事なのは、この出口は短頭種に特有のものではない という点です。正常な頭の形の対照犬6頭にも、同じ位置に全頭で見つかっています。犬の解剖として、もともとある構造なのです。

    違ったのは、その使われ方でした。正常な犬では造影剤が本来の鼻涙管開口部からも相当量流れ出たのに対し、短頭種の54%では、この副開口部が造影剤の唯一の排出経路でした。 本来の出口はほとんど機能せず、途中のバイパスが排水のすべてを引き受けている、という状態です。

    著者らの結論は明快です。短頭種の流涙は、涙の排出路の機能不全そのものではなく、眼瞼裂が大きすぎること(macroblepharon)、涙液の異常、睫毛による刺激という「犬種に結びついた解剖学的・機能的障害の複合」によって起きている。副開口部が、極端な構造の歪みにもかかわらず臨床的な閉塞を防いでいる、というのが著者らの見立てです。

    つまり、短頭種で疑うべきは出口の詰まりではなく、入口と表面です。 涙点をふさぐ目頭側のまぶたの巻き込みと、留まれない涙の膜。先に述べた「内眼角眼瞼内反」が流涙の直接的なしくみとして最も分かりやすい、という説明は、このCT研究とも整合します。

    この知見は、検査結果の読み方にも関わります。前章で触れたとおり、眼科的に正常な犬でも16%は色素が鼻から出ず、短頭種では12頭中9頭が陰性でした。涙が副開口部から抜けているのなら、鼻孔で確認できないほうがむしろ自然です。「鼻から色素が出なかったので詰まっているようです」と言われた場合、それは確定診断ではなく、次の検査に進むための手がかりだと受け止めてください。

    なお、この研究は短頭種の話です。マルチーズやトイプードルなど短頭種でない犬種では、鼻涙管の閉塞や涙点の未開通が原因になることは実際にあります。

    構造を直すと涙は止まる──手術のデータが示すこと

    因果関係の向きを知るうえで、いちばん強い証拠は介入研究です。涙やけの領域では、それは食事の研究ではなく、手術の研究として存在します。

    流涙を主訴に内眼角形成術(目頭側のまぶたを形成する手術)を受けた犬23頭 の追跡研究があります。内訳はシーズー15頭、ペキニーズ4頭、マルチーズ2頭、トイプードル1頭、パグ1頭。

    • 原因として同定されたもの:内眼角部の睫毛 91.3%/内眼角部の眼瞼内反 82.6%
    • 続発していたもの:結膜炎 69.6%/角膜潰瘍 17.4%
    • 術後、流涙は23頭すべてで消失
    • 角膜潰瘍と結膜炎は2週間以内に治癒、角膜の変化の多くは1か月で改善
    • 追跡期間5〜24か月(平均12か月)で再発なし
    • 全頭に中〜重度の結膜浮腫が出たが、抜糸までに消失
    • 飼い主の満足度は94〜96%。ただし術後は「目が小さく、丸く見える」

    出典:Yi らの研究(2006年)

    目頭の構造を変えたら、流涙が全頭で止まった。 23頭・単一施設の報告ではありますが、これは「涙やけの主因は構造にある」という見方を、相関ではなく介入の形で支持しています。同等のデザインで「食事を変えたら流涙が止まった」ことを示したデータは、今回の調査では見つかりませんでした。

    より新しい大規模なデータもあります。英国の紹介施設で2016〜2021年に 内眼角形成術を勧められた短頭種271頭 を追った研究では、実際に手術を受けたのは118頭(43.5%)、うち72.0%がパグでした。手術後は将来の角膜潰瘍のリスクが有意に低下し、飼い主からは目やにの減少、顔まわりの刺激の軽減、目の周りを拭く頻度が減ったという報告が得られています(Andrews らの研究、2023年)。

    ただし、これは読者に手術を勧めるものではありません。 上記はいずれも、角膜潰瘍を繰り返すなど眼の健康そのものが脅かされていた症例です。着色が気になるという理由だけで検討する話ではなく、判断は必ず獣医眼科の診察を経てください。ここで押さえていただきたいのは、「涙やけの根っこは構造にある」という説明が、実際に構造を変えた結果によって裏づけられている という一点です。

    涙やけそのものを狙った試験は、現時点で1本だけ

    先に触れた研究を、論文の中身に踏み込んで整理します。涙やけスコアを主要評価項目に置いた対照試験は、今回確認できた範囲でこの1本のみです。

    研究の設計は次のとおりです。

    • 対象:犬40頭(ビション・フリーゼ28頭、トイプードル12頭)、平均21.45か月齢、平均体重3.79kg
    • 割付:年齢・体重・涙やけの重症度をそろえて4群(各10頭)にランダムに割付
    • 介入:基礎食に0.5%の菊花(Chrysanthemum morifolium)、決明子(Cassia semen)、茯苓(Poria cocos)のいずれかを添加。対照群は担体のみ
    • 期間:28日間(2025年9〜10月)
    • 評価:訓練された3名が同一の照明条件下で独立に採点、7日ごとに測定

    結果は次のとおりです。

    • 涙やけスコア:対照群比で38〜49%低下(p<0.05)
    • 着色の長さ:33〜57%短縮(p<0.05、左右とも)
    • 血清鉄:決明子・茯苓群で32〜48%上昇/フェリチン:全群で24〜77%上昇
    • δ-アミノレブリン酸(ポルフィリン合成の初期産物):全群で25〜44%低下
    • IgA・IgG:25〜87%上昇/TNF-α:41〜44%低下
    • 腸内細菌:Allobaculum が増加(ただし多様性そのものには群間差なし)

    出典:Wang らの研究(2026年)

    ここで日本語の通説と食い違う点があります。血清鉄とフェリチンは「上がった」のに、涙やけは減っています。

    日本のウェブ記事では「鉄分の多いフードが涙やけの原因」という説明を頻繁に見かけます。しかし、涙やけと鉄の指標を実際に同時測定した、確認できた範囲で唯一の試験は、逆方向の結果 を出しました。著者らはこれを「鉄の状態が改善した」と解釈し、ポルフィリン合成の初期産物であるδ-アミノレブリン酸が減ったこととあわせて、鉄がヘムに正しく組み込まれる流れが整った可能性を示唆しています。

    ただし、この1本で「鉄分説は間違い」と結論づけるのも同じ誤りです。 著者ら自身が限界を明記しています。「腸内の酪酸濃度を測定しておらず、糞便微生物移植による検証も行っていないため、提唱した機序は相関の域を出ず、推測にとどまる」。加えて、28日間、40頭、2犬種のみ、追試なしという条件も忘れるべきではありません。

    現時点で言えるのは、「涙やけと栄養の関係は、否定されているのではなく、まだほとんど調べられていない」ということです。 そして数少ないデータは、少なくとも「鉄を減らせばよい」という単純な図式は支持していません。

    文献で見つけられなかったこと

    最後に、探したうえで見つからなかったもの を挙げます。「科学的に否定された」という意味ではありません。「調べた記録が見当たらない」という意味です。この区別は重要なので、そのまま書きます。

    • 通常のドッグフードが涙やけを引き起こすことを示した対照試験
    • グレインフリー食への変更で涙やけが改善したことを示した試験
    • ポルフィリンが日光や空気に触れて酸化し、赤茶色に変わることを示した実験
    • 涙やけの着色を特定の酵母や細菌によるものと同定した培養研究
    • 水の硬度やミネラル含有量と涙やけの関連を調べた研究
    • 涙のpHと着色の関連を調べた研究
    • 「涙やけが治るまでの期間」を犬種や原因別に示したデータ

    一方で、同じ短頭種の目という土俵では、これだけの計測データが揃っている ことも事実です。研究者の関心が向いているのは着色ではなく、その手前の涙液と構造のほうだと言えます。着色は結果であって、原因ではないという理解と一致します。

    自宅でできるケアは?

    目のまわりが変色した白い犬の横顔

    確認できた自宅ケアは「拭く」「乾かす」「毛を短くする」の3つだけです。 これは着色を消すためのものではなく、濡れた状態が続くことで起きる皮膚トラブルを防ぐためのものと考えてください。

    • 目の周りを清潔に保つ(拭く)
    • 拭いたあとは乾いた状態に保つ(乾かす)
    • 目の周りの被毛を短くカットする。毛が涙の通り道をふさぐこともあります

    拭き取りは、乾いた被毛をこするのではなく、湿らせて汚れをふやかしてから、力を入れずに押さえるように行います。目に液体が入らないよう、目頭から外側に向けて動かしてください。

    乾拭き→湿らせる→乾拭き、という手順の細かいところは、涙が多い子向けの記事に写真つきでまとめています。

    あわせて読みたい 涙が多くひどい涙やけにおすすめのお手入れ方法を紹介! →

    予防はどこまでできますか?

    正直に言うと、まぶたの構造が要因になっている場合、飼い主さんの側で予防できることは限られます。 生まれ持った顔の形は変えられないからです。

    そのうえで、日常的にできることは3つあります。目の周りの毛を伸ばしすぎない、涙を拭いたあときちんと乾かす、そして変化に早く気づくことです。とくに3つ目が重要で、「いつもの涙やけ」と「今回はいつもと違う」を見分けられるのは、毎日見ている飼い主さんだけです。左右差や急な増加に気づけるよう、ふだんの状態をスマートフォンで撮っておくと、受診時の説明にも役立ちます。

    なお、着色そのものの改善を期待して自己判断でサプリやフードを次々に試すことは、あまりおすすめできません。原因が分からないまま時間が過ぎるうえ、後述するように成分上の懸念がある製品も存在するためです。

    「どのケア用品を使ってもダメ」と感じるときの多くは、製品より回数の問題です。涙の量を上回る回数を確保できているかを、先に見直してください。

    あわせて読みたい 涙やけ改善できない人の圧倒的口癖!どのケア商品使ってもダメ →

    やってはいけないこと

    過酸化水素(オキシドール)を含む製品を目の周りに使わないでください。 北米の動物病院グループが明確に警告しています。

    また、点眼薬は、以前に処方されたものであっても獣医師の指示なく使わないでください。 原因が特定できていない状態で薬を使うと、角膜に傷がある場合などに悪化させるおそれがあります。人間用の目薬も同様です。

    「白くなるサプリ」は安全ですか?

    涙やけを白くすると謳うサプリの一部から抗菌剤が検出され、米国FDAが繰り返し警告書を出しています。 これは日本ではあまり知られていない情報です。

    2014年8月、FDAは涙やけ製品を販売する3社に警告書を発出しました。一部の製品にタイロシン酒石酸塩という抗菌性物質が含まれていたためです。FDA は「タイロシンは犬・猫のいかなる用途にも承認されていない」と明言しています。さらに1社は、輸出先の税関で留め置かれないよう、ラベルからタイロシンの表示を意図的に省いていたことを認めました(米国獣医師会の会報より)。

    2017年5月にも、別の1社に対して同じくタイロシン酒石酸塩を理由とする警告書が出されています(FDA 警告書)。

    承認されていないということは、有効性も安全性も規制当局の審査を経ていないということです。そしてより大きな問題は、原因を診断しないまま着色だけを消してしまうと、緑内障や角膜潰瘍といった見逃してはいけない病気のサインを覆い隠してしまうことです。

    個人輸入品やインターネット通販の製品を検討する際は、成分表示を確認し、迷ったら獣医師にご相談ください。

    よくある質問

    Q. 犬の涙やけの治し方は?

    着色そのものを消す方法ではなく、なぜ涙があふれているのかを特定することが先です。まぶたの構造が原因なら外科的な選択肢、涙の通り道の閉塞なら洗浄、結膜炎やアレルギーならその治療、というように対応が変わります。自宅では清潔と乾燥を保ちます。

    Q. 涙やけは何ヶ月で治りますか?

    期間を一律に示せる情報は確認できませんでした。原因によって経過が大きく異なるためです。すでに着色した毛は元に戻らないので、涙の量が落ち着いたあと、伸びた毛に生え替わるまでは色が残ります。

    Q. 涙やけの原因は鉄分の摂りすぎですか?

    それを示したデータは確認できませんでした。むしろ、涙やけと鉄の指標を同時に測った唯一の対照試験では、血清鉄とフェリチンが上昇した群で涙やけスコアが低下しています(Wang らの研究、2026年)。ただし40頭・28日間の単一研究であり、これをもって「鉄は多いほどよい」と言えるわけでもありません。現状は「関係がよく分かっていない」というのが正確な答えです。

    Q. ヨーグルトを食べさせると良いですか?

    ヨーグルトが涙やけに効果があるという獣医学的な裏づけは確認できませんでした。犬には乳糖の消化が苦手な個体もいます。食事を変える前に獣医師にご相談ください。

    Q. 口の周りも茶色いのですが、同じものですか?

    別のものです。涙やけは涙の排出路や目の周りの構造が背景にあるのに対し、口元の変色(よだれやけ)は唾液の量・唇の形・口元の毛の長さが中心になります。お手入れの方法も変わるので、別の記事にまとめています。

    あわせて読みたい よだれやけの落とし方|海外の獣医学的根拠にもとづく毎日のお手入れ →

    Q. 涙やけは人間にもありますか?

    人でも涙があふれる流涙症は起こりますが、犬のように被毛が着色することはありません。この記事の内容は犬についてのものです。

    Q. 涙やけがあるのに、涙が少ないと言われました

    矛盾ではありません。涙の量が減ると目の表面が刺激され、かえって反射的に涙があふれることがあります。シルマー涙液試験はこれを見分けるための検査です。なお短頭種では逆のパターン、つまり「涙の量は多いのに、膜としてもたない」状態が標準的であることも、複数の研究で確認されています。

    まとめ

    • 涙やけは病名ではなく、涙があふれる「流涙症」という症状のあらわれ方です
    • 主要な獣医学的情報源では、多くのケースで主因はまぶたや涙の通り道の構造とされています
    • 計測研究では、短頭種の涙は少ないどころか多く、目にたまる量も約2倍でした。問題は量ではなく、涙の膜が留まれないことです
    • 造影CTで見ると、短頭種の鼻涙管は極端に歪んでいますが詰まってはおらず、半数以上で別の出口が排水を担っていました。疑うべきは出口ではなく入口と表面です
    • 目頭側のまぶたを形成する手術を受けた犬23頭では、流涙が全頭で消失し、平均12か月の追跡で再発がありませんでした。構造を変えると涙は止まるという結果は「主因は構造」という説明を裏づけています(ただし手術は、角膜潰瘍を繰り返すなど眼の健康が脅かされている場合の選択肢です)
    • フードが涙やけの原因であるというエビデンスは、確認できませんでした。サプリの効果を見た小規模な研究はありますが、これは「フードが原因」の根拠にはなりません
    • 目を細める・充血・角膜の白濁が涙と同時に出ているときは、緑内障の初期像と重なります。様子見をせず受診してください
    • 自宅でできるのは「拭く・乾かす・毛を短くする」。着色を消すためではなく、皮膚トラブルを防ぐためのケアです
    • 「白くなる」と謳うサプリの一部には未承認の抗菌剤が含まれていた事例があり、FDAが警告書を出しています

    涙やけは見た目の問題として語られがちですが、似た見え方をする重い病気があるという一点だけは、覚えて帰っていただければと思います。

    参考文献

    獣医療機関・専門誌の解説

    • Eye Discharge or Epiphora in Dogs|VCA Animal Hospitals
    • Tear Staining in Dogs|MedVet
    • Nasolacrimal and Lacrimal Apparatus in Animals|Merck Veterinary Manual
    • Disorders of the Nasal Cavity and Tear Ducts in Dogs|Merck Veterinary Manual
    • Brachycephalic Ocular Syndrome|Today’s Veterinary Practice(Caryn E. Plummer, DVM, DACVO/フロリダ大学獣医学部, 2026年4月)
    • Glaucoma|Cornell University College of Veterinary Medicine, Riney Canine Health Center

    原著論文(本文の数値は各論文の記載を直接確認)

    • Spornberger J, Soukup P, Meyer-Lindenberg A, Allgoewer I. Tear film characteristics in French bulldogs vs. non-brachycephalic dogs. Front Vet Sci. 2025;12:1732237. doi:10.3389/fvets.2025.1732237
    • Li YH, Martins B, Lin CT. Investigation of ocular surface parameters in dogs with different cephalic conformations using veterinary ocular surface analyzer (OSA-VET). Vet Ophthalmol. 28(3):605-618. doi:10.1111/vop.13256
    • Voitena JN, Marinho TOC, Montiani-Ferreira F, et al. Normative values of tear film parameters in brachycephalic dogs using OSA-Vet®: meniscometry and TBUTNI. Vet Res Commun. 2026;50:231. doi:10.1007/s11259-026-11182-8
    • Sebbag L, Silva APMS, Santos ÁPB, Raposo ACS, Oriá AP. An eye on the Shih Tzu dog: Ophthalmic examination findings and ocular surface diagnostics. Vet Ophthalmol. doi:10.1111/vop.13022(PMID: 36057776)
    • Vitor RC, et al. Shih-Tzu dogs show alterations in ocular surface homeostasis despite adequate aqueous tear production. Acta Vet Scand. 2024;66:3. doi:10.1186/s13028-024-00724-2
    • Sahr S, Dietrich A, Oechtering G. Evaluating malformations of the lacrimal drainage system in brachycephalic dog breeds: A comparative computed tomography analysis. PLoS ONE. 2021;16(9):e0257020. doi:10.1371/journal.pone.0257020
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    規制当局・業界紙

    • FDA warns makers of unapproved tear stain products|AVMA / JAVMA News, 2014
    • FDA Warning Letter: Merit Pet Products, LLC(2017年5月12日)

    二次引用(Today’s Veterinary Practice 経由。一次論文の本文は未確認)

    • Packer RMA, et al. Impact of facial conformation on canine health: corneal ulceration. PLoS ONE. 2015;10(5):e0123827.(鼻のシワと角膜潰瘍リスク約5倍)
    • Ophthalmic disorders in a referral population of seven breeds of brachycephalic dogs: 970 cases (2008–2017). J Am Vet Med Assoc. 2021;259(11).(PMID: 34727059)

    免責事項

    本記事は一般的な情報の提供を目的としたものであり、診断ではありません。愛犬の症状については、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。記載内容は執筆時点で確認できた情報にもとづいており、個々の犬に当てはまるとは限りません。

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    記事執筆者・監修者

    西尾 亮佑 西尾 亮佑
    西尾 亮佑

    【ペット業界15年以上】横浜ペットコミュニティ専門学院にてトリミング・訓練を学び、大手ペットショップ・ペットメーカーに勤務。数多くのペットショップ・トリミングサロン・動物病院を視察してきました。

    その中でペット業界の矛盾の多さや利益優先の姿勢に疑問を持ち、愛犬・愛猫の健康面を最優先に考える想いを貫くため2020年7月15日にDog&Cat CLEARを設立。愛猫21匹と愛犬2匹と暮らしながら『愛犬・愛猫の健康は飼い主が守る』を発信しています。

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