猫がいる家で、犬の肉球クリームを選ぶときに確認すべきこと
- こんな人にオススメな内容
-
- 犬と猫を一緒に飼っている
- 犬に塗ったクリームを猫が舐めることがある
- 「犬猫兼用」の表示をどこまで信じていいか知りたい
- 成分表示のどこを見ればいいか分からない
- なぜ猫だけ特別なのか──酵素がひとつ足りない
- 猫で問題が報告されている精油
- 「直接塗らなければ大丈夫」とは限りません
- 犬の皮膚科の教材には、精油入りの保湿剤が載っています
- では、どこまで心配すればいいのか
- 猫がいる家で、肉球クリームを選ぶときに見る3つのこと
- 1. 成分表示に精油・ハーブの名前がないか
- 2. 「犬猫兼用」の表示だけで判断しない
- 3. 「舐めても安心」が誰にとっての話か
- 私たちがハーブ系成分を使わない理由
- よくある質問
- まとめ
- 参考文献
- 免責事項
犬に肉球クリームを塗ったあと、同居している猫がその足を舐めた。あるいは、塗ったばかりの犬に猫がすり寄って、そのあと毛づくろいをしていた。
犬と猫を一緒に飼っている家では、珍しくない光景だと思います。
犬用として売られている製品の多くは、犬にとっては問題ありません。ただし 猫には、犬と決定的に違う体のつくりがひとつあります。 この記事では、その違いと、成分表示のどこを見ればいいかを整理します。本文で触れている資料の出典は、すべて記事末尾の参考文献に挙げています。
肉球のカサカサそのものについては、犬の肉球がカサカサになる原因は?受診の目安とホームケアを解説にまとめています。
先に結論だけお伝えします。
- 猫は肝臓の酵素がひとつ足りないため、精油に含まれる成分に犬より弱いことが分かっています
- しかも 毛づくろいという習性が、皮膚からと口からの両方の曝露リスクを高める と獣医学の資料に明記されています
- 犬の皮膚科の教材では、保湿剤の選択肢として精油を含む製品も挙げられています。犬にはそれでよいのですが、猫がいる家では条件が変わります
- 「犬猫兼用」「舐めても安心」と書かれていても、成分表示は確認する価値があります
- ただし、過度に怖がる必要はありません。線引きは記事の後半でお伝えします
なぜ猫だけ特別なのか──酵素がひとつ足りない

理由はシンプルです。
獣医師向けの標準的な手引き(Merck獣医マニュアル)の毒性学の項には、「猫はグルクロン酸転移酵素(glucuronyl transferase)を欠いている」 と記載されています。
この酵素は、体に入った物質を水に溶けやすい形に変えて排出するための働きを担っています。猫はこれが不足しているため、同じ手引きによれば 「一部の精油に含まれるフェノールおよびフェノール性化合物に対して非常に敏感」 になります。
犬にはこの欠損がありません。同じ手引きは 「猫と鳥は、精油による中毒のリスクがとくに高い」 と、犬と区別して記載しています。
つまり「犬に安全だから猫にも安全」とは言えない。ここが出発点です。
猫で問題が報告されている精油
同じ手引きが挙げているものを、そのまま整理します。
肝臓への毒性が報告されているもの
- ティーツリー(メラルーカ)
- シナモン
- カッシア(桂皮)
- バーチタール
- ペニーロイヤル
けいれんを誘発しうるものとして挙げられているもの
- ユーカリ
- セージ
- ヒソップ
- ウィンターグリーン
- シダー
- バーチ
- ワームウッド(ニガヨモギ)
ペット用のケア製品では、香りづけや抗菌の目的でこれらが配合されていることがあります。ラベルに「天然由来」「オーガニック」「ハーブ配合」と書かれていても、それは猫にとって安全という意味ではありません。 天然であることと、猫の肝臓で処理できることは、別の話です。
「直接塗らなければ大丈夫」とは限りません

ここが、犬の肉球クリームの話につながる部分です。
同じ手引きには、「猫の毛づくろいという自然な習性が、皮膚からと経口の両方の曝露において、さらなるリスクをもたらす」 という一文があります。
例としてディフューザーが挙げられており、空気中に放出された微小な油滴が猫の被毛に付着し、「皮膚から直接吸収されるか、毛づくろいの際に摂取される」 と説明されています。
この経路は、肉球クリームでも同じことが言えます。
- 塗った犬の足を、猫が舐める
- 塗った犬に猫がすり寄り、自分の被毛に付いたものを毛づくろいで舐める
- 塗った手で猫を撫でて、その毛を猫が舐める
猫に直接使わなければ関係ない、とは言い切れないということです。 猫は一日のかなりの時間を毛づくろいに使う動物なので、被毛に付いたものは高い確率で口に入ります。
犬の皮膚科の教材には、精油入りの保湿剤が載っています
誤解を招かないように、公平に書いておきます。
米国ミネソタ大学の動物皮膚科が公開しているオープン教材では、鼻と肉球の角化亢進の管理について、保湿剤の選択肢として「プロピレングリコール、ワセリン、尿素、あるいは精油を含む製品」を継続して塗ることが必要になる、と記載されています。
これは犬の話としては、まったく妥当です。 犬には前述の酵素欠損がなく、精油を含む保湿製品が犬の治療で使われること自体は問題視されていません。
つまり、精油入りの肉球クリームが「悪い製品」なのではありません。犬だけの家なら、選択肢として成立します。 条件が変わるのは、同じ家に猫がいるときだけです。
犬用品を選ぶとき、猫の存在は普通は考慮に入りません。だからこそ、多頭飼いの家では自分で確認する必要があります。
では、どこまで心配すればいいのか
正直な線引きをお伝えします。
猫が犬の足を一度舐めたからといって、直ちに中毒が起きるわけではありません。 中毒の成立には、成分の種類、濃度、量、猫の体格や体調が関わります。ごく少量を一度舐めただけで重篤な症状が出ることは、一般的ではありません。
問題になりやすいのは、毎日、繰り返し、長期間 という条件がそろったときです。肉球クリームは日常的に使うものなので、この条件に当てはまりやすい製品ではあります。
ですから、この記事でお伝えしたいのは「怖い」ではなく、「一度だけ成分表示を見ておく価値がある」 ということです。一度確認して問題がなければ、あとは気にせず使えます。
なお、猫が精油を舐めた、あるいは体調に変化があるという場合は、自己判断せず動物病院に連絡してください。 何をどのくらい摂取した可能性があるかを伝えられると、対応が早くなります。
猫がいる家で、肉球クリームを選ぶときに見る3つのこと
1. 成分表示に精油・ハーブの名前がないか
前述のリストに載っているものは、とくに確認してください。「〇〇油」「〇〇エキス」という表記になっていることが多いです。
香りがはっきりある製品は、何かしらの香り成分が入っています。無香料と書かれていない製品は、成分表示を最後まで見てください。
2. 「犬猫兼用」の表示だけで判断しない
犬猫兼用として販売されていても、根拠は製品によって異なります。 猫での安全性を確認したうえでそう書いている製品もあれば、犬用の処方をそのまま兼用としている製品もあります。
判断材料は表示の言葉ではなく、成分表示です。
3. 「舐めても安心」が誰にとっての話か
この表記は、多くの場合「塗った本人(犬)が舐めても」という意味で書かれています。同居する猫が舐めることまでを想定しているとは限りません。
書き手が猫のことを考えていたかどうかは、成分を見れば大体わかります。
私たちがハーブ系成分を使わない理由

ここからは、私たち自身の話です。
CLEAR CREAM は、当初の設計からハーブ系の成分を外しました。理由は、猫のアロマオイル中毒への懸念です。
私たちは20匹の猫と2匹の犬と暮らしています。犬の足に塗ったものを猫が舐める場面を、日常的に見ている立場です。自分の家で使えないものを、他の方に勧めることはできない というのが、単純な理由です。
そのため、配合は精製水、グリセリン、オーガニックシアバター、ミツロウ、マルラオイル、モリンガオイル、トレハロース、寒天、ヒアルロン酸、有機酸、グレープフルーツ種子エキス、フルボ酸、トコフェロール(ビタミンE)としています。保存料、殺菌剤、石油系界面活性剤、人工香料は使っていません。
香りで良さを演出することはできませんが、猫のいる家で毎日使うものとしては、この方向でよかったと思っています。
猫のアロマオイル中毒については、こんなアロマは注意!猫のアロマオイル中毒にもう少し詳しく書いています。
よくある質問
Q. 猫に犬用の肉球クリームを直接塗ってもいいですか?
製品によります。成分に前述の精油が含まれていないことを確認したうえで、少量から試してください。迷う場合は、かかりつけの獣医師にご相談ください。
Q. 猫がクリームを舐めてしまいました。
量が少なければ、多くの場合は様子を見て問題ありません。ただし製品に精油が含まれている場合、また、よだれ・ふらつき・嘔吐・元気消失などの変化がある場合は、すぐに動物病院に連絡してください。 製品のパッケージか成分表示を手元に用意しておくと話が早く進みます。
Q. アロマディフューザーを使っています。犬猫がいる部屋では避けたほうがいいですか?
獣医師向けの標準的な手引きは、ディフューザーから放出された微小な油滴が被毛に付着し、皮膚から吸収されるか毛づくろいで摂取されると記載しています。とくに猫と鳥はリスクが高いとされているため、同じ部屋での使用は慎重に判断されることをおすすめします。
Q. 「天然由来」なら安全ですか?
天然由来であることと、猫の体で処理できることは別の話です。前述のティーツリーやユーカリはいずれも天然の植物由来ですが、猫では問題が報告されています。
Q. 肉球のカサカサそのものについて知りたいです。
原因と受診の目安を犬の肉球がカサカサになる原因は?受診の目安とホームケアを解説にまとめています。
まとめ
- 猫はグルクロン酸転移酵素を欠いており、精油に含まれるフェノール類に犬より弱いことが分かっています
- 獣医師向けの標準的な手引きは 「猫と鳥は精油中毒のリスクがとくに高い」 と、犬と区別して記載しています
- 毛づくろいという習性が、皮膚からと口からの両方の曝露リスクを高めます。 犬に塗ったものが猫の口に入る経路は現実にあります
- 犬の皮膚科の教材には精油入りの保湿剤も選択肢として載っています。犬だけの家なら問題ありません。 条件が変わるのは、猫がいるときだけです
- 一度だけ成分表示を確認してください。確認して問題がなければ、あとは気にせず使えます
- 猫が舐めて体調に変化があるときは、自己判断せず動物病院へ
犬用品を選ぶとき、猫のことは普通は書かれていません。だからこそ、多頭飼いのご家庭では、飼い主さんご自身が一度確認する必要があります。この記事が、その一度分の手間の役に立てば幸いです。
参考文献
- Toxicoses From Essential Oils in Animals|Merck Veterinary Manual(獣医師向けの標準的な手引き)
- Idiopathic Keratinization Disorders: Nasal and Digital Hyperkeratosis|University of Minnesota, Veterinary Dermatology(米国ミネソタ大学のオープン教材)
- Are Essential Oils Dangerous to Pets?|ASPCApro(米国動物虐待防止協会)
免責事項
本記事は一般的な情報の提供を目的としたものであり、診断ではありません。愛犬・愛猫の症状については、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。
記事執筆者・監修者
- 西尾 亮佑
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【ペット業界15年以上】横浜ペットコミュニティ専門学院にてトリミング・訓練を学び、大手ペットショップ・ペットメーカーに勤務。数多くのペットショップ・トリミングサロン・動物病院を視察してきました。
その中でペット業界の矛盾の多さや利益優先の姿勢に疑問を持ち、愛犬・愛猫の健康面を最優先に考える想いを貫くため2020年7月15日にDog&Cat CLEARを設立。愛猫20匹と愛犬2匹と暮らしながら『愛犬・愛猫の健康は飼い主が守る』を発信しています。